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商標調査の基本#04「日中の商標事情と商標登録の流れ」
「商標調査の基本」シリーズ、第4弾!
今回は、少し海外に視野を向けて「日中の商標事情について」、それを踏まえて、実際に「商標登録を行う際の流れや費用・期間について」2つのテーマを軸に、弁理士中村先生お聞きしました!
本シリーズもいよいよ終盤、次回が最終回です。最後までぜひご覧ください。
#日本と中国の商標事情
中村先生(以下、中村):繰り返しとなりますが、「商標」は他者と区別するためのものです。
単に、言葉を独占することが目的となってしまうケースが最近目立ってしまっていますが、それは本来の目的とはズレてしまっていることを知って欲しいです。
IP-RoBoスタッフ(以下、スタッフ):確かに事例だけで見てしまうと、途中から相手を制限している印象が強く本来の目的を見失いそうになりますね。制限のためではなく、あくまで差別化するための方法であること、肝に銘じます。
ちなみにこういったことは、日本でのみ起こる現象なのでしょうか?それとも、世界的にこのようなズレはよくあることなんでしょうか?
中村:制度的には日本も海外も商標制度があるので、海外でも起こりうることではあると思います。
スタッフ:では、市場規模の大きい中国の商標事情はいかがでしょうか?日本に比べて緩い・厳しいなど…
中村:中国の出願件数は日本の約50倍で、さまざまな人がどんどん出願しているという印象です。そのため、日本企業も自社の名前の出願登録がすでに取られてしまうというような被害にもあっています。
スタッフ:なるほど、むしろ取ってしまうんですね。なんとなくですが、逆かと思ってました。
ブランドや某テーマパークキャラクターなど偽物が出回っている印象だったので、商標登録をせずに無法地帯になっているのかと思っていました。
中村:もちろんそういうケースもありますが、どちらかというと日本企業が中国進出して、自社商品を販売しようとする前に、中国企業が先に商標取ってしまうことが結構あります。
よくあるのが、日本の国際展示会に中国企業が来て「これいいな」と思うものを、先に中国で商標を取ってしまう…とか。
スタッフ:今時、海外進出を視野に入れずに商品開発することはないですもんね。
ということは、海外の場合はその国での商標登録が必要ということでしょうか?
中村:そうです。商標制度は国ごとにあります。日本の法律が日本国内でのみ適用すると同じで、商標権も日本でしか通用しません。
日本で権利持ってるからといって、中国でも適用されるかと思うとそうではないのです。
最近の事例では、「無印良品」でしょうか。日本で「無印良品」を展開する良品計画が、先に中国企業に「無印良品」の商標を取られてしまい、この商標を一部商品に使えないという事件がありました。
スタッフ:こういうことが起きないためにできる対策はあるのでしょうか?
中村:もちろん、あります。むしろ、海外ビジネスを成功させたいなら海外での商標権取得は必須です。
手続きとしては、権利者が「直接出願」の手続きを行うか、または、日本の特許庁と国際事務局を通じて複数カ国に同時に出願する「国際登録制度」を利用する方法があります。
中村:ただし、国際登録制度を利用しても審査はそれぞれの国で行うので、国際事務局(WIPO)で通ったからといって希望する全ての国で取得できるとは限りません。また、それぞれの国に対応する申請料を支払う必要もあります。
#商標登録の流れと費用・期間
スタッフ:調査・出願・登録それぞれの費用と所要期間についてを詳しく教えてください。
中村:日本では、商品・サービスが45の区分に分けられていて、指定する区分の数によって費用が変わってきます。
出願時は1区分目が12000円。区分が増えるごとに8600円ずつ追加されます。そして、その審査が大体1年くらいかかります。
スタッフ:え、結構審査期間って長いんですね・・・!
中村:そうなんです。
ちなみに、その審査では、登録してもよい商標の基準に達しているかどうか、商標として“適格性”があるかどうかを判断します。
中村:上記表の通り、指定商品の「りんご」に対し、「アップル」という名称はNGですが、商品が「PC」であれば「アップル」はOKとなります。
要は対象商品・役務との関係性によるということですね。また、品質表示「肉製品」に対して「炭焼き」や、ありふれた名前などはNGです。
このような、そもそも商標として認められるかどうか、を判断する審査が行われます。
ちなみに、このような審査とは別に、当該マーク自体が他の公共機関のものや、オリンピックマークなどと紛らわしかったり、他の人が先に権利とっている商標ではないかという判断も行います。
そのため、申請から1年くらい審査待ちがあるのです。昔は、大体4,5ヶ月くらいだったのが出願件数が増えてどんどん長くなっています。
スタッフ:昔は短かったんですね。これもまた、てっきり最近はAI化・デジタル化によりスムーズになっているのかと思っていました…。
中村:そして、先ほどお伝えした出願時に12,000円払い、その後ストレートでOKが出た場合でも、そのまま登録が認められるわけではなく、さらに登録料を支払って初めて登録となります。登録料は、10年間有効で1区分28,200円です。
スタッフ:なんと…申請料金とは別に、しかも、さらに高い費用がかかるんですね。
中村:一応、5年で分割払いすることもできます。そして、登録完了後は10年間有効ですので、10年後に更新手続きを行う必要があります。
スタッフ:その更新が何らかの要因により、できなくなることはありますか?
中村:それはありません。
スタッフ:では、基本的には1回取得することができれば、維持は可能ということですね。先程おっしゃっていた1年の審査期間中に、周りの状況も変化すると思うのですが、判断基準も変化してしまうことはないのでしょうか?
中村:どちらが先かという問題は、あくまで申請順です。しかし、商標としての“適格性”に関しては、審査段階の話になります。
考えられるのは、「誰の業務に係る商品・サービスか認識できないもの」の基準の変化でしょうか。
最近だと「アマビエ」は、コロナ禍でさまざまな会社が“コロナが収まるように”という宣伝に使用するようになり、この項目で拒絶となりました。
なので、ひょっとしたらコロナ前に「アマビエ」を商標出願し、審査期間の待機中にコロナ禍になり、アマビエをさまざまな人たちが使用するようになれば、不可になるかもしれません。
スタッフ:なるほど、それ面白いですね。言葉の意味と価値が1年間で変わることがあれば、もしかすると判定基準も変化するということですね。
中村:まあ、滅多にないんですけどね。
スタッフ:話題が一つ前に戻るのですが、審査期間が昔より伸びているという件。
無知なわたしたちとしてはとっても不思議なのですが…ほども申し上げた通り、AI化・デジタル化により、てっきり作業効率化が進んでいるのかと思っていました。
この件の背景も、詳しくお聞きしてもいいですか?
中村:昔の商標出願件数は、10万件〜13万件くらいでしたが、ここ最近19万件くらいに増えたんです。
要因は、中国をはじめとする外国企業の出願が増えたのと、国内でも中小企業や個人事業主も出願するようになったという感じでしょうか。
スタッフ:確かに、最近はある意味気軽に個人単位でのビジネスも増えていますしね。
中村:そうですね、個人ビジネスを行う人は確実に増えているので、少なくとも影響はあると思います。
スタッフ:そういう意味では、商標も“大企業だけのもの”という感覚は無くなってきているのかもしれませんね。
冒頭でもお伝えいたしました通り、次回は、「商標調査の基本」シリーズ最終回です!
「商標出願件数と登録査定件数から見る調査の質の変化」についてお届けする予定です。
最後までどうぞお楽しみに。
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[取材協力]
中村祥二
Markstone知的財産事務所 弁理士
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