記事公開日
IP-RoBo創業ストーリー
商標調査ツールTM-RoBoを提供している株式会社IP-RoBoですが、本記事ではその創業についてCEO岩原が執筆します。
当社について違う角度からの
始まりは大学時代のAI研究
今は第3次AIブームの真っ只中ですが、バブル経済と重なる1990年前後にも1つ前のAIブームがきていました。大学(大学院)時代、私は、当時AI研究で有名だった研究室に所属していました。ルールベース型のエキスパートシステムが主流の中、汎用性の高さと技術的な困難性に魅力を感じ、当時ではそれほど主流ではなかった機械学習の研究、具体的には機械学習する際の属性獲得をいかに効率的に行うかについて研究をしていました。
広告代理店から法律へ
私の所属していた研究室では、有名な大手企業から多数の求人が来ており、行きたいところを一つ選ぶというのが通常の就職活動でした。しかし、元々チャレンジ精神が強いことに加えて、バブル経済が絶頂期に来ていたこともあり、安易に就職を決めるのではなく、できるだけ就職難易度の高いところへ自力でトライしてみるという選択をしました。当時の理系の就職活動としては異色だったと思います。
最終的には、当時、競争率100倍を超えていた博報堂に就職することに。入社後は、広告業界が模索していた新たな媒体の開発を行う開発部に配属されました。
4年間様々なプロジェクトに関わったのち、フランスで特殊映像の映画制作をプロデュースした際に、フランスのプロダクション等と契約するために、弁護士とのやりとりを行いました。そのやりとりのなかで法律に興味が沸き、「技術とコンテンツビジネスがわかる弁護士は自分しかなれないのではないか」と勘違いして(笑)、会社を退職し、司法試験を受けることを決めました。
司法試験とAIプロジェクト
最初に司法試験にチャレンジするのは3年と決め、いざ。
わずかな貯金では心もとないので効率的なバイトを探したところ、明治学院大学の研究室が中心となって、民法をAI化するプロジェクトを立ち上げ、法律とAIがわかる人材を募集していました。またまた、「これは自分しかできないのではないか」と確信し(笑)、そこで仕事をしながら勉強を続けました。
民法の理解が深まるとともに、AIと法律の親和性の低さ、法律のAI化の困難性について肌を持って実感しつつも、研究を続けることで一定の方向性が見えてきました。
そして、最初に決めていた3年目に、なんとか司法試験に合格。
これまでの経験を活かして弁護士へ
司法研修所終了後は、大学、大学院で学んだコンピュータを中心とした理系的な素養をもとに最先端技術を扱う特許やソフトウェアを専門にし、博報堂時代のコンテンツビジネスの経験をもとに商標や著作権についても専門にする弁護士になろうと考え、法律事務所に入所しました。
およそ20年に渡り、特許、商標、著作権、ソフトウェアに関する訴訟等を多数取り扱い、弁理士試験委員、税関の水際対策専門委員をはじめとする各種公職にも就任し、これらの業務を扱っていました。
日常的に知的財産権を取り扱い、実務を目の当たりにするにつれて、知的財産権を取り巻く実務についての疑問が日増しに大きくなりました。
“最先端なことを扱う知的財産権調査等の実務が、なぜこんなに前近代的なのか?”
知的財産権の現場は、専門家による極めて属人的な職人気質なやり方で、テクノロジーとは無縁ともいえる世界でした。このような現状に疑問を持ち、いつか知的財産権をAI化することを考えるようになりました。
しかし、私が弁護士になった2000年頃は、AIブームが沈静化しており、知的財産権のAI化の実現とはほど遠い環境でした。ところが、2010年過ぎからのAI第3次ブームの盛り上がりに呼応するように、AIを巡る法律の議論が様々な委員会等で行われ始め、私もそれらのいくつかの委員会に呼ばれました。最新のAI技術やその応用例を検討していくなかで、これまで漠然とやりたいと考えていた知的財産権のAI化を実現することが現実味を帯びてきたことを実感しました。
そこで、それまでに関係していた知的財産権の専門家やAIエンジニア等に声をかけてチームを作り、知的財産権のAI化を本格的に研究することに至ったのです。
知的財産権のAI化実現へ
自身の知識と経験から、これまでの専門家の判断をルールベース化しても使い物にならず、審決等を漫然と機械学習しても実用レベルの精度を出せないということは容易に想像できました。といっても何もしなければ始まらないので、まずは開発対象を商標に絞り、ひとまずこれまでの専門家の判断を機械学習したうえで、精度が出ない理由を一つひとつ潰していく地道な作業を繰り返していきました。
検討していく中で、知的財産権の専門家とAIエンジニア、そしてその両方を専門的にやってきた私を含めた三者で検討を繰り返すことで、様々な画期的なアイデアが生まれ、いくつものブレークスルーを実現し、商標の専門家と同等レベルの精度を達成することができました。気づけば、研究と試行錯誤を始めてから三年程経過していました。
完成した商標AIエンジンをもとに、マニュアルがなくても使えるインターフェースを作成し、会社を設立して商標検索AIツール「TM-RoBo」のサービス提供を始めたのです。
IP-RoBo設立から今
設立直後は、最初に完成した商標AIの基本機能をリリース。
既存商標調査ツールでは、入力商標について部分的に一致する登録商標を検索することくらいしかできないため、まだまだ効率的とはほど遠い状態でした。
これに対し、TM-RoBoは、知的財産権の専門家の判断と同等レベルの精度で類否に関する統計的な指標(類否統計指標)を数値化できるため、重要な商標に絞り込んで集中的に検討することが可能となりました。
このため、専門家の業務効率は10倍以上に高まるとともに、事業部など商標を専門としない方にも一定水準の商標検索が簡単に行えるようになりました。
現在も、様々な追加機能を開発していますが、その中でも、2020年7月にリリースした<商標検索は、世界的にみても類を見ない画期的な機能で、これまで行うことができなかった非常に専門的な検索を行うことができるようになったと自負しています。
この機能の追加後は、ポーラ・オルビスホールディングス様、小林製薬様をはじめとする商標を大量に出願する大企業への導入が進んだだけでなく、大手特許事務所にも導入が進んでいます。
IP-RoBoのこれから
現在は、日本国内向けの商標検索AIツール「TM-RoBo」を提供していますが、今後は、更に機能と精度を向上させ、より完璧なサービスに近づけていきたいと考えています。更に、海外版「TM-RoBo」、特許調査AI「Patent-RoBo」、不正競争防止法違反調査AI「不競-RoBo」等の開発を順次行っていきたいと考えております。
当社の最終的な目標は、知的財産権全般をAI化することにより、知的財産権実務の効率化を図り、日本の知的財産立国を下支えすることです。その夢に向かってこれからも邁進していきます。
******************************************************************
[ 執筆者 プロフィール ]
岩原 将文 /株式会社IP-RoBo CEO
2000年弁護士登録。
主として、特許、著作権その他の知的財産権に関する相談、契約、訴訟等を行う。
大学・大学院時代には、機械学習に関する研究を行っていた。
<関連リンク>
WEB:https://ip-robo.co.jp/
お問い合わせ:info@ip-robo.co.jp
******************************************************************